腰をよりよく理解するために 〜骨盤矯正ベルトの仕組み〜

今回衣類付き骨盤矯正ベルトWing×Walker開発者でペインクリニック専門医・スポーツ医・労働衛生コンサルタントでもある佐藤欣也先生に『腰をよりよく理解するために〜骨盤ベルトの仕組み〜』というテーマでお話を頂きました。そして骨盤ベルト開発の基本的な理解に役立つお話を頂きました。

はじめに

労働災害の85%は腰痛と言われ、人が人生で腰痛を体験する割合は7割にも達します。しかしながら原因の判らない腰痛は、非特異性というレッテルを貼られ、麻薬様作用の服薬や抗痙攣薬に寄る痛みの管理が主流となっています。しかしこれは対処療法に過ぎず、原因の判らない腰痛に対する根本的な治療ではありません。

 

これほど発達した医学の中でも、なかなか原因が解明しにくい理由として腰痛原因が一つとは限らず、複雑に絡み合っていることが上げられます。 非特異性腰痛のほとんどは体を構成する靭帯や筋肉、関節にまでバランスがくずれることでずれが起きていることが原因と臨床解剖学では疼痛部位として報告されてきています。しかしこれもまだ臨床での治療の中では、それぞれの部位が腰痛にどのように関わっているか解明されてないため、主流の考え方とはなっていません。

 

ですから今回の目的は、まずベルトを使用されるみなさんが何故このベルトが必要になるのかを腰痛の視点から理解することが大事なことだと思います。そのため、当院独自で臨床解剖学での疼痛部位である体性深部痛の治療視点から分類した非特異性腰痛の原因をお示ししたいと思います。

 
 

臨床解剖学での疼痛部位

痛みを感じる神経が多い部位は、椎間板や硬膜外腔というような脊柱管内の他、椎体を前後で支える前・後縦靭帯、腰椎と仙骨の間にある腰仙移行部、仙骨後面、椎間関節周囲というように主に腰の骨の骨膜と靭帯に集中しています。

 

腰痛を来す大まかな部位

そこで判り易く患者さんに腰痛について説明をする時、まず大まかに3つの原因があるとお話しています。

 

1つ目は、腰の骨である椎体や脊柱管内の病態です。これには病名が付いている特異性腰痛が入ります。圧迫骨折、ヘルニアや椎間板症、辷り症、脊柱管狭窄症などです。硬膜外腔に炎症起きると癒着性の病態が合併し、慢性化する主な要因になっています。これが約2.5割。

 

2つ目は、腸腰筋や大腿筋膜張筋、梨状筋など筋肉が硬くなって神経を挟んで起きる出口症候群です。これが約3割でその中で腸腰筋が全体の筋肉量の約半分なので、この筋の拘縮が神経を圧排することが17%と特に問題です。

 

3つ目は、腸腰靭帯、長・短仙後靭帯による関節炎、前縦靭帯の炎症4,5割です。 特に腸腰靭帯の炎症によると思われる痛みが21%と重要な部位になります。

 
 

原因別腰痛治療(概略)

1つ目の脊柱管内の病態には、ペインクリニックで主な治療法である硬膜外ブロックという治療が理論上効くことになります。硬膜外腔の癒着の場合は先端がワイパー状に動くラクツカテーテルという治療法もあります。ヘルニアや椎間板症には、当科的に高周波熱凝固法で椎間板内を焼灼します。辷り症、脊柱管狭窄症などでは、お風呂で改善する冷えを伴う痛みがあれば交感神経節ブロックを併用します。圧迫骨折では、セメントを椎体に注入することもあります。痛みを軽減するため普通の非ステロイド性鎮痛薬に抗痙攣薬を加えます。このように部位や症状により、様々な治療法からその原因にあったものを行ない、疼痛原因を減らすようにします。

 

2つ目は、体の筋肉の半分量の腸腰筋群です。座る姿勢は90度に脚を曲げている状態ですが、この時腸腰筋は140kgで引っ張っております。座ってばばかりいるとこの筋肉が伸びなくなってきて拘縮するようになると下肢の神経をこの筋肉と椎体という骨の間に挟むようになってしまいます。腰が曲がったおばあさんが真っすぐに寝ると腸腰筋が通常の曲がった位置より伸びなければならず、神経が挟まれ易くなって寝ている時に痺れや痛みを訴えるようになります。この場合は、腸腰筋を伸ばすストレッチング、日中は筋肉を柔らかくする中枢性の筋弛緩剤を処方しています。ブロック療法は、直接的ではないですが、大腰筋間溝ブロックで軽快しますので定期的にブロックしながらリハビリの指導を行なっています。

 

3つ目は、腸腰靭帯、長・短仙後靭帯による関節炎には局所麻酔で効果があった場合、直接その圧痛部位を高周波熱凝固法で焼灼します。前縦靭帯の炎症は椎体の変形によってお腹側に骨棘という骨がでてくると起きてきます。その場合お風呂で改善する冷えを伴う下肢痛があれば高周波熱凝固法による交感神経節ブロックを施行します。 普通の非ステロイド性鎮痛薬に弱い麻薬を処方して痛みを軽減させます。

 
 

骨盤ベルトの紹介

このベルトは、先にあげた腰痛原因の1つ目の辷り症と2つ目、3つ目の改善・予防のために開発しました。謂わば先に上げたブロックで直す治療をサポートし、腰痛になりにくい体を作るリハビリの補助具としての側面を持っています。

 

体を支える重要な筋肉は体の筋肉の半分量でもある腸腰筋(大腰筋+腸骨筋)が40歳を過ぎると毎年500gも全身での筋力量が減少していくため、その補正を腰椎が行ない、後ろに反ることで腰痛になりやすくなります。腰痛原因の2つ目はこの筋肉が主病態ですが、この筋肉が緩めば、1つ目の原因の一つである辷り症も起き易くなりますし、何度も前後に椎体が揺さぶられるとヘルニアや脊柱管狭窄症にもなり易くなります。3つ目の末端での靭帯の位置のずれによる炎症も起き易くなります。若い人でも脚ばかり組んでいると腸腰筋が弱ってきて3つ目の症状を起こし易くなります。そこでこの筋肉の動きを補強するために作られたのが、今回紹介している骨盤ベルトになるのです。

 

現在臨床で使用している腰保護ベルトは腰より頭側側の腰椎を覆うベルトですが、骨盤自体を固定する商品はほとんどが美容用かスポーツ時の補助用となっていて臨床使用に耐えうるものはありません。そして骨盤の安定のため骨盤全体を固定してしまう固定方式がほとんどです。

 

我々が今回開発したところは、脚を動かす動的因子と安定装置としての骨盤を保持するため、片方の脚が前に出る時反対側の骨盤の固定性が増す仕組みです。更に大腿骨頭が正姿位に戻れるようX脚やO脚用でカスタマイズしました。 腰痛がひどい方以外にも姿勢の元になるのは骨盤のため、姿勢矯正としても利用できます。

   

骨盤ベルトの作用

腰は肋骨より下の下半身までの筋肉全てで骨盤と腰椎を支えています。前の腸腰筋群が働きにくくなって背中の筋肉だけで支える所謂へっぴり腰体型のようなずれが起きると腰痛になるので、ここが支点になってへっぴり腰を直す必要があります。ここに強力に働いているのが腰当てになっているステーです。へっぴり腰になると仙骨だけが脚が付いている腸骨より背側にずれやすくなってしまうのです。ステーは後面からこの仙骨を押して骨盤に安定性をもたらします。これが仙骨ステーを利用した独自の骨盤安定化 (OPS:Original pelvic Stabilization)です。座っているとステーごと背側のベルトが引っ張られ、この骨盤矯正によって腸腰筋が正しい位置で使い易くする作用が生まれます。

 

歩くという動作は、一度歩けなくなるとどんなに大変か判るものです。なにせ片方の脚を浮かせて前に進める間、反対の脚は骨盤から脚先まで地面に固定して体全体の重さに耐えていなければなりません。最も重要な骨盤も固定されなければ、とても反対の脚を自由に宙に浮かせることはできないのです。そこで我々は、脚を動かした時にその動かしたベルトの反動で反対側に固定化を図れるようにしました。

 

これが歩く時の対側脚の振り子作用を利用した骨盤引き締めです。この作用によって骨盤が必要な時に締め付けられる自然な骨盤安定に近い状態が再現できます。

 

Wing×Walkerは、これら二つのフレキシブルな安定装置で本人に不足した筋力を補うことが姿勢改善に繋がるよう仕上げました。

 

更に、骨盤ベルトの内外引っぱり強度の強弱により、O脚用は内側に、X脚用は外側に股関節の軸を戻す股関節の軸補整(AMHJ:Axis manipulation of the hip joint)が脚の軸を正常な方向に戻すことで現状の問題点にあった商品開発に至りました。

 

腰痛になりにくくなるための秘訣

よく腰痛があると歩けと言われますが、今までお話したような不安定な姿勢ではよく使う筋肉と使わない筋肉がそのままなので、いくら先生に歩けと言われて歩いても姿勢が悪ければ使われない筋肉は使われないままです。

 

筋肉には主に二つの役割があります。体を自分の意識で動かせる動的な筋肉(主に表層筋)と体を反射的に支えている自分ではその緊張感が自覚できない静的な筋肉(主に深層筋)です。意外な事に自分で動かせる動的な筋肉は筋肉量の3割程度しか使えません。逆に姿勢改善を行なう体を支える静的な筋肉量は、体全体の筋肉量の約7割もあるのです。この静的な筋肉は40歳代から毎年500gずつ減ります。40歳代になれば、この静的な筋肉を意識して鍛えることが、腰痛予防になるということです。もちろん若くてもダイエットしてこれらの筋肉が栄養になってしまい、減ってしまった方も同じだと言えます。

 

最近の日本人の姿勢は脚を体幹に対して90度にして座っていることが多いのです。座った状態では腸腰筋に140kgもの引っぱり強度がかかっています。この短くなったまま腸腰筋が痙攣性に拘縮してしまうと寝る時に腸腰筋が伸びれないので仰向けで寝る事が辛くなってしまうのです。自分で認識できない筋肉なので腰痛を起こすまで静的な筋肉の変化に気づけないことで、急に腰痛を発症したように訴える人が多いのです。

 

簡単なストレッチとしては、椅子を使ったボウリング姿勢があります。
椅子に座る際、片方のおしりを椅子の外側にだして座ります。外側に出した側の脚をボウリングのように片脚膝を付くように降ろして脚の重さでストレッチします。そうすると腰の前側にある腸腰筋が伸ばされることで腸腰筋を鍛えることになります。

 

よく椅子で脚を組む人がいますが、この姿勢は逆に腸腰筋が弱ることになり、腰痛を発症しやすくなるので気をつけましょう。

 

Q1. どのようにして腰痛の原因を特定していったのでしょうか?
A1. 患者さんは、一つの原因だけの病態でないことから、臨床解剖学にある痛みを感じる部位の内,圧痛を訴える部位に局所麻酔剤を注入し、症状がどこの部位がどれだけとれたか一人一人検査して行きました。体性深部痛には、関連痛といって違う部位に痛みや痺れが投射しています。その症状が取れたということは、その症状を訴える人は腰のここが悪いと判るようになる訳です。その結果を確実にするため、周囲2mmしか焼灼しない高周波熱凝固法という針の先だけが凝固する治療法で関連痛と言われる痛みを伴うしびれが軽減する部位をマッピングして、そこを治療した場合7割以上の患者で半分以上痛みが取れるようにして特定部位を突き止めました。

 

Q2. 骨盤ベルトの開発で苦労した点はどこでしょうか?
  そして利用される皆様に一番お伝えしたい点はどこでしょうか?

A2. まず膨大な開発に要した時間です。腰痛の原因検索に12年、開発3年に及んだこのWing×Walker。さらにサイズ毎にベルトの反撥力を調整して各ベルトバランスを取れるように商品化することに1年以上費やしました。その後の臨床研究でも200体以上のサイズ毎の使用での調整を余儀なくされました。骨盤はサイズだけではなく人により形がかなり違います。骨盤位置やX脚やO脚での調整も含めるとその調整は難航しました。 そして衣類付き骨盤ベルトWing×Walkerが、どのような役割を担っているかということを把握し、腰痛の理解を深めてベルト使用する時の効果を実感しながら使用する一助となれば幸いです。

 

Q3. 衣類付き骨盤ベルトWing×Walkerですが、使用時の注意点や制限はありますでしょうか?
A3. 皆さんに判って頂きたいのは、今回のベルト仕様が、腰痛の緩和が期待できることと腰痛予防という臨床仕様に耐えうるものであることです。そのためすぐ装着できたり、すぐ脱いでトイレでも便利という仕様にはなっていないことです。
また下腹部の圧迫が一つの起点にもなっているので、膀胱を刺激されていると頻尿傾向が多くなる方は制限を受けます。
仙骨部にも背面からステーで圧迫されているので、褥瘡になりやすい方は制限を受けます。
一般的な注意点としては、長時間仕様ではないことです。圧迫が長引けば下肢への血流低下を来し易いので注意が必要です。もともと下肢血流低下ある方は、使用が制限されるのです。
寝たきりの人に履かせて仰向けに寝せるのは止めてください。あくまで腰椎が立っている姿勢、座ったり、立っていたりという姿勢の時に作用を期待できるからです。
使用目的は、腰痛の緩和が期待でき、不安定姿勢や介護などでの補助的な支えとして、また帰宅後の数時間使用での骨盤矯正などですので、あくまで腸腰筋のストレッチなどを鍛えることを主眼におき、Wing×Walkerは補助的な使用でお願いしております。